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Patina|パティーナとは
REPORT

【お出かけルポ】古くて新しい、本物のパンづくり。 京丹後の農家パン屋「弥栄窯」に行ってきました。

ルポ隊ゆうな@京都府丹後市「弥栄窯」

京都というと美しい景観を残す古都として洗練されたイメージが強く、観光スポットとしても人気ですよね。

そんな魅力の詰まった京都なのに、実は小学校の修学旅行で行ったきりという私が一人旅の道中、知り合った方にオススメされて訪れたのは京都府北部に位置する丹後半島でした。

「丹後におもしろいパン屋さんがいるから行ってみるといい。」

と、紹介されて向かったのは、山間にひっそりと佇む古民家で、「農家パン屋」として手ごね、薪窯焼成のパンづくりをしている「弥栄窯」。

農家パン屋「弥栄窯」

くねくねとした山道を車でひた走り、ようやく辿り着いた一軒の古民家。ここが「弥栄窯」です。

古民家ですが、よく見ると手前にパンを焼く窯のものと思われる煙突が!

山をバックに佇むその姿はなんとも言えない懐かしさのある風景。

独特な印象の屋根は、元々茅葺きだった屋根をトタンで覆ったもの。その古民家に足を踏み入れると、土間は迫力のある吹き抜けになっていて、昔お蚕さんを飼っていた家なのだとか。

そんな趣ある古民家を自宅兼パン工房としてパン作りをしているのは、28歳のパン職人、太田さん。全国でも珍しい完全な手ごねで、素材である小麦の栽培にも挑戦したりしているそう。他のパン屋にはない、自然な素材にこだわった美味しいパンが食べられると、丹後で人気があるそうです。

なぜここでパン作りをはじめたのか、どんなパン作りをしているのか、お話していただきました。

きっかけは「震災」

なんと太田さん、元々プロの格闘家として活躍していたそう。

全く畑違いところから転身したきっかけは震災だったのだと言います。

ちょうど就職の時期に起きた震災、そして原発事故を目の当たりにしたとき太田さんは、

「これはやばい。原発なんかで成り立っている国の「普通の企業」に就職なんてしてる場合じゃない。」

と思ったのだとか。

「自給自足に憧れて」ではなく「自分が暮らすのに必要なものを当たり前に作りながら生活したい。」

そんな思いから、丹後市で有機農業を営む農家さんの元でしばらく農業を学んでいたそう。そしてある時パンづくりと出会い、本物を学びにフランスに渡り、一年修行を積んだと言います。

「今の奥さんである当時の彼女がパン教室に通っていたから、教えてもらって何の気なしに作ってみたのがパンづくりをはじめたきっかけ。まさか自分がパンづくりを仕事にするとは思ってもみなかった。」

思わぬ形でパンづくりに出会った太田さん。

実は、はじめてパンを焼いたときにとても感動してしまったんだとか。

「粉だったのもがこねて焼いたらこんなにもふっくらと膨らむということが、魔法のようだとなぜか感動してしまった。当たり前なのに、というか当たり前なことだからこそ心惹かれたのだと言います。きっとはじめて膨らむパンを焼いた人も同じように驚き、感動しただろうと。」

お話を伺いながら工房の中を見せてもらうと、レトロで立派な窯が!

窯をあけてもらうと…「ジブリの魔女の宅急便に出てきやつだ!」とひとりで大興奮!

そして部屋全体がとても温かいので、さっきまでパンを焼いていたのかと思いきや、10時間近く前に焼き終わったのに熱が残っているのだと聞いて驚きました。

窯の熱がじんわりのこる部屋で、急な訪問にも関わらずパンを試食させていただくことに。

テーブル代わりにと持ってきてくださったのは、生地をこねるための台。

箱舟のようで素敵な佇まい。知り合いに作ってもらったそう。

「完全な手ごねで作るパン屋さんは日本でも数件しかないです。ほとんどが機械でこねている。」

そして販売しているパンのラインナップを見せていただきました。種類は5種類。菓子パンや惣菜パンなどはつくらず、どれも普段の食事として食べられる、ベーシックなものだけをつくっているそう。

事前注文があれば個人のお客さんの分も作るけれど、基本的に卸し販売のみという弥栄窯。

販売用のパンは全て売れてしまっていましたが、ありがたいことにご自宅で食べられていたパンを少し切り分けていただきました。

左はライ麦パン、右はブリオッシュ。

食べてみると、これまで食べたライ麦パンやブリオッシュとは全く別物なのではないかと感じるほど、しっとり、少しもっちり感もありながら食べ応えがあり、かなり美味しい!そして味も、小麦の味をしっかりと感じられて、パンだけでいくらでも食べられてしまいそうなほど、味わい深い美味しさです。

普段作られているパンはこんな感じ。

こんな美味しいパンの作り方を教わったのは、さぞかし有名な一流店なのだろうと思ったら、実は農家が営む素朴で小さなパン屋さんだったと言います。

「究極のパンを作ろうという感じではなく、育てた麦を自分で挽いて手でこねてパンを作るという、当たり前のことをしたいと思っただけで。」

そんな「当たり前」の良さ、本質を学んで帰国し、こうして丹後市の山奥でパン作りをしている太田さんが店舗を持たないのは、接客や販売ではなく「パンをつくる」ことに全力を注ぎたいという気持ちがあるからなんだとか。

麦作りに挑戦するも、イノシシなどに食べられてしまい、まだまだ自分で作った麦だけでパンづくりはできていないそうですが、小麦を「挽く」ことも大切に考えて、なるべくパンをこねる前に石臼で挽いた小麦を使用していて、もし挽く時間が足りなかったとしても大手製粉会社からは買わず、石臼で挽いたものだけを取り寄せているそう。

実はこの電動石臼、かなり高価な上に、製粉会社は1時間に何トンも挽けるところを石臼は1時間に1kg程度しか引くことができないそうです!

なんでそうまでして、手間も時間もかかる石臼で挽いた小麦を使うのでしょう?

「実は、製粉会社が一度に大量に挽いている小麦は、粒子が細かすぎるんです。粒子が細かすぎる小麦のパンを食べると、腸壁に粒子がへばりついてしまって消化が悪くなる。普段の食事で食べるもので健康を害するなんておかしいでしょ。」

「小麦の挽き方だけじゃない。グルテンアレルギーだって無理な品種改良を重ねたせいで出てきているものだし、すべては「当たり前」じゃないやり方で安く大量に作ってただ儲けようとしてきたことの報い。もともとパンは何千年も人間の主食として食べられてきたものなのに、急に人間の体に合わなくなるわけがないんです。」

太田さんが目指すのは「究極のパン」といった自己満足なものでも、持続不可能なストイックなものでもない、「当たり前のパン」。

「ちなみに、石臼は遺跡などから発掘されたものと、今機械で作られているものと、構造や下臼と上臼の角度などは全く変わっていないんです。昔の人がいかに賢かったかがわかるというか、おもしろいですよね。」

そう話す太田さんのパン作りは、古くて新しい、これからの日本に必要な考え方が詰まっているように感じます。

「自分は震災、原発問題をきっかけに有機農業を学んだりしたけど、世の中を自分の力で変えてやろうとかは思ってなくて。いろんな人がいていいと思うんですよ。ただ、自分は毎朝この窓に向かってパンをこねて、山と山の合間から朝日が昇るのを見るのが好きなんです。あと、あそこから水をひいて、水車をつくって、水力を使って石臼で小麦挽いたりしたいな〜とか。」

 

「しなければならない、というより、そうしたいからする。」

 

何かを成し遂げることを目標に日々の暮らしを投げ打つような暮らしをしている人、逆に豊かな暮らしを突き詰めることに疲弊してしまっている人、みんな幸せに暮らしたいだけなのに、どこか暮らし下手な人が多いこの国で、こんなにも絶妙なバランス感覚を持った太田さん。

太田さんはパン、食べることを軸にしていますが、「当たり前」であることの大切さは衣食住、ありとあらゆることに通じていると思います。こんな風に暮らす人がひとりでも増えたら、わたしもそんな風に暮らしていけたら。

それが本当の豊かさにつながっていくのではないでしょうか。

 

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農家パン 弥栄窯

京丹後市弥栄町野間

090-2938-1019

https://www.facebook.com/yasakagama/

 

弥栄窯のパンの販売はこちら

木曜日|カナブン(京丹後市網野町)16時頃から

金曜日|キコリ谷テラス(京丹後市弥栄町舟木)14時から

土曜日|いととめ(京丹後市大宮町)16時から

日曜日|渓床カフェ 9時〜12時まで

※カフェは季節限定。

※なくなり次第終了。

不定期|kit(京都市内)

 

 

編集部ゆうな

絵を描くこと、ものづくりが好きで高校からデザインを学んで某美大へ。卒業後は企画を学びに代理店に就職。 プランナーという名の何でも屋だったので、マンガ連載や似顔絵作成など、まったく関係ない能力が色々と身につく。ライターとしては勉強中。 今より約10kg以上も太っていた過去が…! 自力で食の勉強をするうちに大の料理好きに。今は痩せた幸せと玄米を噛みしめている。 料理好きが高じて最近では釣りや陶芸、包丁も柳刃や出刃まで揃えて自分で研いだりしているが、「女子力っていうか、凝り性なおじさんに近いよね」という友人の指摘は概ね間違ってはいないと思う。